前年度の研究成果より、細胞内リズムにおけるコヒーレンス生成崩壊サイクルと細胞形態における形態生成サイクルの間での相互依存関係が、真性粘菌の形態形成プロセスにおいて重要なはたらきを担っていることが実験的に示された。そこで、本年度は、このプロセスにおける相互拘束メカニズムを明らかにするために、前者を化学振動子の結合系として、後者を原形質流動に伴う力学系としてモデル化し、シミュレーション的に解析することを試みた。具体的には、化学振動子系はカルシウムおよびATPの非線型リズムの結合系と捉え、それらの濃度に依存して力学系における原形質流動の駆動力を生成すると考えた。また、力学系は原形質流動を記述するために流体力学系として捉え、その流動に伴う原形質輸送によって化学振動子の間でのカップリングに影響を及ぼすとした。これらの結果、化学系と力学系は相互拘束的挙動することがシミュレーション的にも確認された。さらに、化学系と力学系は、時間的に異なるタイムスケールで動作しており、化学振動子系における位相的コヒーレンスとしての位置情報の生成は、力学系におけるゆっくりした変化のもとに拘束を受けていることが示された。このことは、化学系における空間的多様性の生成を前提にして、個体としての時間的統合性を実現する上で力学系が有効であることを示唆している。
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