生体関連分子からなる2次元配向膜の研究は、なぜ分子が自己集合により機能的組織体を形成するのかという問題に関して重要な情報が得られるだけでなく、工業的には新素材の開発等の視点からも注目されている。この種の分子は界面を利用すると自己集合により構造をとることが知られている。そこで、本研究では、第1に、固液界面を利用して有機・生体分子の2次元配向膜をグラファイト基板上に作成し、その薄膜の物性を走査型トンネル顕微鏡(STM)を用いて測定した。実験にはアルカン、アルコール、脂肪酸、コレステロール、コレステロールエステル、フタロシアニン、及び、2本の炭化水素鎖の間にアミン、ソルフィド、エーテル、エステル、ケトン基を挟んだ直鎖状の有機分子を用いた。その結果、分子内の各種の官能基はトンネル現象によって識別することが可能であることと官能基の選択は有機分子から成る2次元配向膜の制御において重要であることが分かった。第2に、有機分子の自己集合に気液界面を利用した(ラングミュアーブロジェット(LB法)。脂肪酸、リン脂質、コレステロール、及び、リン脂質とコレステロールの2成分系からなる2次元配向膜(LB膜)を作成し、原子間力顕微鏡(AFM)により分子の配向を検討した。また、薄膜に熱を加えることにより起こる膜中の分子の再配列も検討した。特に、2成分系の薄膜においてはナノメートルの分解能でドメインとその形状を検討し、従来の光学顕微鏡では得られなかった詳細な情報を得た。結果は分子の頭部に電荷を持つ場合、分子頭部間の電荷-電荷の相互作用とドメイン境界におけるラインテンションがドメインの形状変化に関係があることを示唆する。
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