生体関連分子からなる2次元配向膜の研究は、なぜ分子が自己集合により機能的組織体を形成するのかという問題に対して重要な情報が得られるだけでなく、新素材の開発等の視点からも注目されている。この薄膜の物性の研究において、我々は近年開発された走査型プローブ顕微鏡を用いると原子・分子レベルの直接観察という視点に立ち、官能基単位の分解能で、構造、電子物性と分子間相互作用の3つの観点に基づいた機能性薄膜の物性の研究方法を試みることができる。そこで、第1に、固液界面に形成した有機分子単分子膜の走査型トンネル顕微鏡(STM)観察からSTMによる有機分子内の個々の原子の識別が可能であるかを検討した。実験には2本の炭化水素鎖の中央に官能基を挟んだ直鎖状分子を用いた。これらの分子の2次元配向は官能基の種類によって大きく異なった。さらに、1分子のSTM像において炭化水素鎖のコントラストを基準にして他の領域の原子団のコントラストを比較することにより、有機分子内での個々の原子の識別が可能であることを示した。第2に、2次元配向における炭化水素鎖の影響を脂肪酸からなる単分子膜を用いて検討し配向は炭化水素鎖の数の偶奇性によって異なることを示した。脂肪酸は不斉炭素原子を持たないので3次元の結晶構造には鏡像関係の単位格子は存在しない。しかしながら、2次元の膜においては炭化水素鎖を主軸にした回転が制限されるために単位格子に鏡像関係が生じることを明らかにした。第3に、リン脂質/コレステロールの2成分からなる薄膜の相分離状態に着目し分子間の電荷ー電荷間の相互作用とドメイン境界に働く力の大きさを検討した。
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