1、標的タンパク質Streptomyces subtilisin inhibitorの存在状態の確立 タンパク質の立体構造変化をリアルタイムに測定するためには、溶液条件をジャンプさせて、これによって誘発される変化を速度論的に追うことが必要である。このジャンプ前後の条件を確立することがまず必要である。このため、CD測定を用いて詳細な平衡論的測定を行い、厳密な熱力学的解析を経て、pH及び温度を縦横軸とする相図を確立した。また、核磁気共鳴法による測定に必要であるため、重水中に於いての同様の相図を確立した。 この際、最も問題となる点は、このタンパク質が二量体であるということである。この二量体解離(会合)に伴うエントロピー変化を精確に求めることは今まで不可能であったが、超高精度熱測定によって、世界に先駆け成功した。この結果より、このタンパク質の平衡論的な安定性に関する詳細が明らかになった。 2、遺伝子操作によるアミノ酸置換体の準備 一般に、アミノ酸置換によって安定性を変化させることが可能であるが、低温変性に対する効果の報告例は皆無といってよい。今回、いくつかのアミノ酸置換による低温変性に対する効果は高温変性よりも遙かに小さいことを明らかにした。 3、pHジャンプ法とCDによるリアルタイム測定 野性型に加えて、このタンパク質内で唯一シス型のプロリン残基をグリシンに置換した変異体について、pHジャンプによる構造転移をCD法によってリアルタイムで測定した結果、プロリン残基のシス-トランス異性化が律速になっている遅い過程に加えて、さらに遅い過程、速い過程があることを発見した。
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