出芽酵母のPHO4は細胞内のリン酸濃度の調節系遺伝子群を制御している正の転写調節因子である。本研究は、この蛋白質の全体構造を明らかにすることを目的としているが、最初のステップとしてPHO4のDNA認識機構を原子レベルで解明した。即ち、63残基からなるPHO4のDNA結合ドメイン(PHO4(63))とその認識配列(UASp2:17塩基)との複合体を結晶化し、2.8Å分解能でX線結晶解析により立体構造を決定した。PHO4(63)はbasic-helix-loop-helix(bHLH)構造をとって二量体でDNAに結合していた。本研究により以下に述べるようなPHO4のユニークなDNA認識や構造が判明した。1.PHO4はE-box(bHLH型の蛋白質が認識する配列)以外にその外側の3′塩基(2残基)をも認識する。この結果はPHO4によるフットプリンティングが3′側にずれることや認識する配列がE-box以外にも共通性がみられる事実をうまく説明する。2.PHO4にはbHLH型の蛋白質としては長いループ部分を有するが、ループ部分の一部がヘリックス構造をとって、コンパクトな構造をとっている。 一方全長のPHO4は培養条件並びに精製条件を検討した結果、界面活性剤を添加することによりかなり収率が改善することが判明し結晶化可能な量(数十mg)の蛋白質を取得することが可能になった。現在蛋白質単独並びに蛋白質-DNA複合体の系で結晶化条件を探索している。全長の真核生物の転写因子が結晶可能な量とれる系はほとんど報告されたことがなく今後の展開に期待がもたれる。
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