本研究の目的は、鞭毛モーターのトルク発生のメカニズム解明の手がかりを得るため、受動回転したときのモーターの発生トルクを見積もる事である。実験にはVibrio alginolyticusを用い、単極毛を駆動するNa^+駆動型鞭毛モーターについて解析した。菌体をスライドグラスに固定し、高輝度暗視野顕微鏡で観察しながら粘性溶液を流し、らせん形の鞭毛に力を加え、鞭毛モーターを受動回転させた。鞭毛の回転数は鞭毛の観察像から、溶液の流速は、溶液中の微小粒子の動きから計測し、それらからモーターの発生トルクを見積もった。その結果、共役イオンであるNa^+や、特異的阻害剤phenamilの有無に関わらず2x10^<-19>Nmのトルクを加えると、鞭毛が回転する事が分かった。また、鞭毛モーターは野生株では時計回りと反時計回りの両方の回転をするが、常に時計回りしかしない変異株、及び常に反時計回りしかしない変異株についても測定したが、野生株と同様の結果を得た。ところが、受動回転は外力によりモーターが破損したためではないことを確認するために、受動回転後に溶液を鞭毛モーターが自ら回転するような条件のものと交換しても、一部の例外を除きモーターは回転しなかった。この原因を調べた結果、非常に強い強度の光により菌体が何らかの影響を受けている事が分かった。そこで、まず光源に紫外線吸収フィルターを入れたところ、ある程度は効果があったものの、実験に十分な条件は作れなかった。そこで、他の可能性を検討した結果、強い光により活性酸素が発生し、それが菌体に悪影響を及ぼしている可能性が考えられた。その影響を除外するためには活性酸素の発生を抑えるために溶液中に還元剤を加えたり、酸素を消費する酵素を働かせるなどの方法が有効である事が分かったが、実験的に検討するところまでは至らなかった。本研究の結果はおおむね信用して良いと思われるが、まだ最後のおさえが必要である。
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