分子状酸素を安定に結合する、完全に人工的なヘムタンパク質をつくることを目的とし、構造予測で用いられる3D-ID法を応用して、153アミノ酸残基からなる新規人工グロビンの設計を行った。この人工グロビン(Designed Globin、DG)のアミノ酸配列がコンピューター上、ターゲットとした骨格構造と矛盾がないことをを確かめた後、これをコードする合成遺伝子を大腸菌内で発現させ、目的とするタンパク質を得た。DGは水溶性で、低タンパク質濃度・非変性条件下でモノマーとして存在した。円偏光2色性とX線溶液散乱による構造解析の結果、DGは、天然のアポミオグロビンと同様のヘリックス含量(61%)と分子の外形(回転半径20Å)を示した。さらに、DGは、その回転半径の減少を伴って、1分子あたり1つのヘムを結合した(K_d=0.08μM)。可視光吸収および共鳴ラマンによる分光学的解析の結果、結合ヘムは、酸化型(鉄3価)で2つのヒスチジンが軸配位している低スピン6配位型であることが示された。一方、還元型(鉄2価)は、低スピン6配位型と高スピン5配位型の混合状態にあった。しかし還元型ヘム-DGを酸素と混合すると結合ヘムは速やかに酸化され、ミオグロビンにみられるような安定な酸素化型を検出できなかった。さらに、NMR測定の結果、DGは、天然のタンパク質にみられるような側鎖レベルでの構造の単一性を欠いていることが明らかとなった。以上の結果は、天然タンパク質のアミノ酸配列には、主鎖の骨格構造とともに側鎖構造もコードされており、分子状酸素との結合のような生物学的機能を設計するためには、主鎖構造ばかりでなく側鎖構造を考慮に入れた設計法が必要であることを示す。
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