根粒菌による窒素固定反応は低酸素のときにのみ起こるように制御されているが、その制御系はFixL(酸素センサーヒスチジンキナーゼ)とFixJ(nifA、fixK遺伝子の転写因子)という2つのタンパク質から構成されている。今年度、これらの情報伝達機構について、以下のことを明らかにした。 1.X線結晶構造解析を行なうために、FixLの酸素センサードメインの結晶化を試み、微結晶を得た。 2.FixLとFixJは四量体の状態で存在し(FixL 2 FixJ 2)、ヘム・キナーゼ間の情報伝達に伴って、この四量体の会合が解けることを、動的光散乱法を用いて明らかにした。 3.FixLの軸配位子であるヒスチジンのイミダゾールのNH基のプロトンのシグナルをNMRを用いて帰属し、これが典型的なヘムタンパク質であるミオグロビンに比べ、低磁場領域に観測された。これはFixLのヘム周辺の環境が疎水的であることを示している。FixLの酸素親和性の低さがこの疎水的な環境に由来して引き起こされている可能性を示唆した。 4.FixLによってリン酸化される転写因子FixJのDNA結合ドメインの立体構造をNMRを用いて解明し、FixJがヘリックス-ターン-ヘリックス・モチーフを持つことを明らかにした。過去の遺伝学的解析から重要と指摘されていた幾つかのアミノ酸残基の立体構造上での位置が明らかになった。それらは直接DNAの認識に関わる役割をするものと立体構造を保持する役割をするものとに分類された。今後、DNAやFixJの変異体を用いた結合実験や、DNAとFixJの複合体の構造解析を行なうことによって、DNAの認識メカニズムを詳細に解明していく予定である。
|