研究概要 |
線虫C.elegansは、遺伝学的な解析が可能なだけでなく、成虫で約300個の神経からなる回路の構造が電子顕微鏡レベルで明らかになっているなど神経機能を解析するための優れたモデル生物である。我々は、C.elegansの行動異常変異体の単離と解析を通じて、神経分化や神経機能を個々の神経細胞レベルで明らかにしようとしている。 1.線虫の二つの代謝型グルタミン酸受容体遺伝子(mgl-1,2)は、それぞれ異なった介在神経で発現している。これらの遺伝子のcDNAを単離し、HEK293細胞で発現させ、グルタミン酸刺激によるシグナル伝達経路の解析を行った。 2.mgl-1,mgl-2遺伝子の欠失変異体の行動を測定したところ、既知の行動測定法ではほとんど異常が見いだされなかった。 3.銅イオンからの忌避行動と匂いへの走化性とのどちらの行動が優先されるかを調べる行動測定系を確立した。介在神経で働いているAMPA型グルタミン酸受容体の変異体(glr-1)では、個々の行動は正常だが、匂いへ走化性が優先されやすくなっていた。また、この制御に関わる新規の変異体を単離した。一方、飢餓条件に線虫をおくことにより匂いへ走化性が優先されるように応答に変化がみられた。この表現型に関する変異体も単離を試みている。 4.上記の測定法を用いて、mgl-1とmgl-2の変異体の表現型を調べた。mgl-1変異株では、野生型に比べ銅イオンからの忌避行動の方が匂いへの走化性より優先された。一方、mgl-2変異株では、飢餓条件における行動の変化が見られなかった。現在、mgl-1,2で見られる表現型がmgl-1,2遺伝子の欠失によるものであることを確認している。
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