線虫C.elegansは、遺伝学的な解析が可能なだけでなく、成虫で約300個の神経からなる回路の構造が電子顕微鏡レベルで明らかになっているなど神経機能を解析するための優れたモデル生物である。我々は、C.elegansの行動異常変異体の単離と解析を通じて、神経分化や神経機能を個々の神経細胞レベルで明らかにしようとしている。 1. 銅イオンからの忌避行動と匂いへの走化性とのどちらの行動が優先されるかを調べる行動測定系を確立した。介在神経で働いているAMP A型グルタミン酸受容体の変異体(glr-1)では、個々の行動は正常だが、匂い物質へ走化性が優先されやすくなっていた。 2. 上記の測定法での行動に異常が見られる変異体を同定した。ut236変異体では、野生型に比べ銅イオンからの忌避行動の方が匂い物質への走化性より優先されたが、銅イオンや匂い物質に対する反応性には違いが見られなかった。ut236変異のマッピングを行い、そのゲノム領域のcosmidを変異体に導入することにより、表現型回復活性を持つcosmidを同定した。 3. 上記の測定系において、飢餓条件に線虫をおくことにより匂い物質への走化性が優先されるように応答に変化がみられた。これは、銅イオンに対する応答性の低下によるものであった。 4. ut235変異体では、飢餓条件における行動の変化が見られなかった。しかし、飢餓状態での他の行動の変化はみられたので、飢餓は感じられていると考えられた。
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