研究概要 |
細胞生物学が対象としている多くの生命現象に、蛋白質リン酸化反応は関わっている。その反応の検出には、ラジオアイソトープやリン酸基に対する抗体などが用いられてきたが、基本的に破壊検査を伴っている。生きた細胞のまま、すなわちin vivo,in situ,さらにreal temeでリン酸化反応を検出できる技術は知られていない。本研究では、そのような技法の確立を目指し、リン酸基と結合する蛍光物質を作成し、蛍光偏光度を測定することによって、リン酸化された蛋白質の量を定量する。そのために、蛋白質のリン酸基と結合するペプチド断片を、ファージまたは大腸菌表面蛋白質に発現させたペプチドライブラリーを用い作成し、蛍光物質(FITCなど)でラベルする。次に、蛍光偏光度を測定することによって、蛍光ペプチド断片とリン酸基との結合をモニターし、リン酸化された蛋白質の量を定量する。9〜10年度にかけて、この目的達成のために、大腸菌表面にランダムペプチドを発現するライブラリー(FliTrx random peptide display library)を用いた。リン酸化チロシンと結合するペプチドを発現しているものを、クローニングするために、リン酸化チロシンをビオチン化した。次に、ビオチン化リン酸化チロシンをアビジンコートされたプレートに結合させ、これに結合する大腸菌を回収した。大腸菌をアガープレートにまいて、得られたクローンをそれぞれ再度培養した。次にそれぞれのクローンが真にリン酸化チロシンに結合するペプチドを発現しているか否かを明らかにするために、FITCラベルしたリン酸化チロシンを作成し、蛍光偏光度の変化を指標にしてスクリーニングしたが、ポジティブなクローンは得られなかった。残念ながら、十分に強く結合するペプチド配列が存在しない可能性が考えられた。現在、ファージ表面にランダムペプチドを発現するライブラリーを使用して、同様な実験を行っているが、良い結果は今のところ得られていない。パニングの条件を色々検討することで、何とか成功させたいと努力している。
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