私達は、FAK分子族に属する第2のタンパク質チロシンキナーゼをクローン化し、これを細胞接着キナーゼβ(CAKβ)と命名した。CAKβに共役するシグナル伝達路を明らかにするために、CAKβC-ドメインをプローベに用いてヒト脳cDNAライブラリーをスクリーニングし、CAKβ結合タンパク質(CBP-1)のcDNAをクローン化した。CBP-1は、Hic-5のヒトホモログである事が明らかになった。Hic-5は焦点接着に局在した。Hic-5アミノ酸配列は、焦点接着局在タンパク質であるパキシリンに最も近縁であった。Hic-5とパキシリンは、そのNドメインがCAKβおよびFAKのCドメイン後半部分と特異的に結合した。抗Hic-5抗体を用いて、WFB細胞抽出液からHic-5を免疫沈降すると、CAKβが共沈した。WFB細胞におけるCAKβのチロシンリン酸化は、血清、リゾホスファチジン酸(LPA)、エンドセリンなどによる刺激、および高浸透圧刺激で亢進するが、これらCAKβを活性化する刺激でHic-5のチロシリン酸化も亢進した。Hic-5とCAKβとの結合は、Hic-5のチロシンリン酸化に重要であることを示唆する結果が得られた。Hic-5のチロシンリン酸化部位を同定し、そこに結合するシグナル伝達タンパク質を同定した。tet系やアデノウイルスベクターを用いHic-5を過剰発現したが、焦点接着の形成、細胞の伸展接着性、細胞の運動・浸潤能及び細胞の増殖能に顕著な影響は認められなかった。Hic-5とパキシリンとは共に焦点接着に局在するが、その機能は異なっている可能性が強く、今後の研究により、Hic-5の機能を明らかにする必要がある。
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