本研究により、aPKC群同様にPI3-キナーゼによって活性制御を受けているp70S6キナーゼがaPKC群の下流因子であること及びこのaPKC群/p70S6キナーゼ経路が少なくとも細胞周期のG1→S期の制御に深く関与していることを、aPKCに属するaPKCλを用いて以下のように明らかにした。A)p70S6キナーゼとaPKCλが直接結合した。B)aPKCλ優性抑制型変異体がp70S6キナーゼの活性化を抑制した。C)p70S6キナーゼの間接的阻害剤であるWortmanninはaPKCλの活性化を阻害したが、別の間接的阻害剤であるRapamycinは阻害しなかった。以上の結果は、aPKCλがp70S6キナーゼの上流に位置し、その活性制御に関与していることを示している。更にD)aPKCλとp70S6キナーゼの優性抑制型変異体が共に増殖刺激による細胞のDNA合成とE2F活性を抑制した。このことはaPKC群/p70S6キナーゼ経路が細胞周期のG1→S期制御に深く関与していることを強く示唆している。 aPKC群はG1→S期制御以外にも、細胞分化、アポトーシス、細胞極性の決定や脂肪組織におけるグルコースの取り込み等に深く関与することが最近明らかになった。しかしながら、aPKC群によるこれら細胞生理作用の制御に関わるシグナル経路の分子機構はまだ不明な点が多く、それぞれの経路に関わるaPKC群の直接の下流因子の同定が待たれている。そこでこれら下流因子の候補として、aPKCλ結合蛋白質の単離をTwo-hybrid法により試みた。現在までに複数個のaPKCλ結合蛋白質をコードしたcDNAクローンを得ており、その解析を進めている。これによりaPKC群が関わる様々なシグナル経路の分子機構が明らかになるばかりでなく、aPKC群の新たな細胞生理作用が明らかになることが期待される。
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