本年度はホヤ被嚢中に散在する発光細胞の性状観察と、凍結乾燥試料による発光系を用いた発光条件の検討を行った。 発光細胞はB励起の条件下で黄緑色の自家蛍光を発する。発光色と蛍光色が似ているため、この蛍光分子が発光機構に関与していることが期待される。また、LysoSensorによる蛍光染色により、細胞中には強酸性の小胞が含まれていることがわかった。ノマルスキー像との対応から、この小胞は電子顕微鏡によって観察されるclear vesicleに対応するものと考えられる。 凍結乾燥試料を用いた発光系では、pH3程度の酸性条件下では、中性条件下と比べて1/100程度の発光しか生じないことがわかった。一方、pH9程度の塩基性条件下では発光量に強い影響は認められなかった。さらに、酸性の緩衝液を添加した試料に、高濃度の中性緩衝液を添加した場合、低レベルであるが発光量の増加が認められる。すなわち、酸性条件下では発光を生じない化学反応で発光基質が消耗(分解?)するが、中性に戻すことで発光を伴う反応が回復すると考えられる。 同様に、還元剤である2-mercaptethanol存在下においても発光の濃度依存的な阻害は認められた。阻害には高い濃度(5-10%)を必要とし、1%程度では殆ど阻害が認められない。また、10%2-mercaptethanolで発光を阻害した試料に、酸化剤として2%過マンガン酸カリウムを添加しても、発光は認められなかった。発光に関連する因子が、強い還元的条件下で不可逆に変性していると思われる。 凍結乾燥試料による発光系が酸性下で阻害が認められたことと、発光細胞中に酸性小胞が認められたことから、酸性条件が発光の制御に関連している可能性が考えられる。
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