我々は以前、哺乳類のホスファチジルイノシトール(PI)移送蛋白質(PI-TP)が、トランスゴルジネットワーク(TGN)からの神経分泌顆粒形成を促進する細胞質因子であることを見いだした。そこで、神経分泌顆粒形成においてPI-TPと共同して働く他の因子の関与を、以前に確立したPC12細胞に由来する無細胞アッセイ系を用いて検討した。まず脂肪因子であるPIの本質的な関与の有無を調べるため、細菌由来のmonoPI特異的ホスホリパーゼC(PI-PLC)の効果をみた。PI-PLCは神経分泌顆粒形成を用量依存的に強力に阻害した。一方、改変した密度勾配を用いた速度遠心法により、2つの異なるTGN(lightとdense)を分離する事に成功した。これを用いて解析した結果、PI-PLCが、小胞形成を阻害すると同時に、PI-TPのdense TGNとの結合を促進する事が明らかになった。この効果に加え、PI-PLCは、TGNで硫酸化を受けたマーカータンパク質の分布を、light TGNからdense TGNにシフトさせた。2つのTGNのうち、dense TGNのみがアクチンの免疫反応を示した。すなわち、このシフトは、TGNとアクチン系の相互作用であると考えられた。このTGNのシフトは特異的で、リソゾームのマーカーや、あらかじめ形成されていた分泌小胞の分布に影響を与えなかった。これらの結果は、TGNからの神経分泌顆粒形成におけるPI-TPと共同して働く脂質膜上因子としてのPIの本質的な関与と、細胞質側因子としてのアクチン系の潜在的な関与を示唆した。
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