本研究は、細胞の分化の誘導およびアポトーシスの抑制という現象に着目し、多様な外界からの刺激に対する細胞応答機構を解明することを目的としている。これまでの研究により、多様な情報伝達機構が明らかにされているが、我々は、PC12細胞において、NGFの分化誘導にはいわゆるRasシグナルの活性化が必要かつ十分であり、一方血清飢餓により引き起こされるアポトーシスの抑制は、分化誘導とは異なり、Rasは必要ではなく、むしろphosphatidylinositol 3-kinase(Pl3K)が重要な役割を果たしていることを示した。本年度は、小脳より単離した初代培養細胞を用いてさらに解析を進め、血清飢餓により引き起こされるアポトーシスをlGF-1は抑制することができるが、その際、MAPKの活性化は起こらずPl3Kおよびその下流に存在するp70S6KやAktが活性化されることを見いだした。そこでPl3K阻害剤を用いて実験を行った結果、このアポトーシス抑制にもPl3Kの活性化が必須であることが示された。さらに、その下流では、P70S6Kの活性化は必要ではなく、Aktの活性化がアポトーシスの抑制には重要な役割を果たしていることが、明らかになった。これらの結果は、Pl3Kを介したアポトーシス抑制機構の解明という点で新たな知見であり、さらに、これまでその機能がよく分かっていなかったAktの機能という点からも興味深い結果である。
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