これまでに本研究では受容体チロシンキナーゼの活性化によるアポトーシスの抑制にはPI3-kinaseおよびその下流分子であるAktセリンスレオニンキナーゼが重要な役割を果たしていることを示してきた。さらにBadのAktによるリン酸化はこのアポトーシス抑制機構の重要なステップであることも示されている。一方Aktの基質としてWntシグナルの構成分子であるGSK-3βが同定されている。GSK-3βは、β-カテニンをリン酸化することによりその分解を促進することが知られているので、β-カテニンのアポトーシス制御における役割を検討した。 野生型β-カテニン遺伝子およびそのGSK-3βによるリン酸化部位に変異を導入した活性型β-カテニン遺伝子さらに核移行シグナルを導入した核移行活性型β-カテニン遺伝子を用い、それぞれの遺伝子を我々の樹立した子宮頚癌由来細胞株に導入し一過性に発現させたところ、アポトーシスに特徴的な染色体凝集像が観察された。またコロニーフォーメーションアッセイにおいては、顕著なコロニー形成率の低下が見られた。これらの結果は、β-カテニンの高発現によりアポトーシスが誘導されることを示している。さらにその活性は、核移行活性型、活性型、野生型の順で高かったことから、GSK-3βにより制御される活性と核への移行がβ-カテニンのアポトーシス誘導に重要であることが示唆される。 現在β-カテニンにより活性が制御されているTCF/lef転写因子のアポトーシス誘導活性への関与を検討している。またAktによるアポトーシス防止機構にはBadが関与していることから、Badとβ-カテニンによるアポトーシス誘導との関係も興味深い問題である。
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