本年度はまず、第三染色体上でほとんどDNA二本鎖切断の起こらないコールド領域のクロマチン構造を解析した。コールド領域に存在するPOL4遺伝子座では、二本鎖切断は見られないものの、減数分裂期への移行にともない顕著な転写量の増大が見られる。解析の結果、減数分裂期にこの遺伝子のプロモーター領域で顕著な球菌ヌクレアーゼに対する感受性の増大が観察された。しかし、POL4領域では他の二本鎖切断が生じる活性型ホットスポットと異なり、mre11遺伝子破壊株でも全く同じ様な変化が認められた。これに対して、コールド領域で例外的に二本鎖切断が見られるARS310域周辺のホットスポットに対応する箇所では、Mre11に依存した球菌ヌクレアーゼに対する感受性の増大が認められた。以上の結果は、コールド領域でMre11を初めとした組換え開始複合体のアクセスが制限されている可能性と、ARS310がその制限を解除している可能性を示唆する。そこで次に、ARS310を染色体から欠失させた株を入手し、そのクロマチン構造への影響を調べた。その結果、ARS310を欠失させた場合、その周辺全体のDNA受容度の低下と、隣接する遺伝子座でのヌクレオソーム配置の不規則化が観察された。以上の結果は、ARS310がその周辺の染色体領域のクロマチン構造を開いた状態に規定し、組換え因子の接近を容易にしている可能性が初めて示唆するものである。また、これ以外の領域(ARS領域などの領域含む)についても順次解析を進めており、結果を蓄積している。
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