研究概要 |
これまでの研究で、海馬アストログリアの培養上清中に海馬ニューロンの生存に必要な低分子物質が存在することが示唆された。本年度はその物質の同定と作用機構の解明を試みた。 1,新たなニューロンの生存因子としてのL-セリンの同定 海馬アストログリアの培養上清のアミノ酸分析を行なったところ、培地(MEM)に含まれていない7つの非必須アミノ酸のうちL-セリンとL-アラニンが多量に含まれていた。海馬ニューロンをそれぞれのアミノ酸存在下で培養した結果、L-セリンとグリシンに生存促進活性、及び樹状突起や軸索の伸長促進活性がみられた。最大の活性を与えるL-セリンの濃度とアストログリアの培養上清中のL-セリンの濃度はほぼ同じレベル(〜100μM)であった。以上の結果から、非必須アミノ酸L-セリンはニューロンに必須のアミノ酸であり、それはアストログリアから供給されていることがわかった。 2,ニューロンに発現する新規脂質の同定 アストログリア培養上清の非存在下において、ニューロンにはホスファチジルセリン(PS)がほとんど存在せず、未知の脂質が出現した。この脂質をアミノ酸分析及びマススペクトル解析した結果、ホスファチジルスレオニン(PT)であることがわかった。さらにin vitro測定系を用いての解析で、PTはPS塩基置換酵素によって合成されること、またこの酵素のL-スレオニンに対するKm値はL-セリンに対するKm値よりも約200倍大きいことがわかった。このことから、何らかの理由で海馬ニューロン内のL-セリン濃度は非常に低いと思われる。 L-セリンは非必須アミノ酸に分類されるが、タンパク質合成に用いられるのみならず、グリシン、PS、そして全てのスフィンゴ脂質の合成の前駆体であるので、その欠乏は細胞死を意味する。非必須アミノ酸に分類されているL-セリンはニューロンにとって非常に重要なアミノ酸であると考えられる。
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