研究概要 |
ショウジョウバエのEGF受容体の活性化を負に制御する分泌性蛋白質Argosについて解析を行い、以下のような成果を得た。 (1)複眼特異的にArgosを過剰発現するトランスジェニック系統GMR-argosを作製した。本系統の複眼を解析した結果、発生後期において過剰な細胞死が起こっていることが判明した。この細胞死は、p35及びDIAP1・DIAP2の共発現によって有意に抑制されたことから、カスパーゼが関与するプログラム細胞死であると考えられた。このArgosによる細胞死は、熱ショックプロモーターを用いて細胞分化が完了した後で活性変異型Rasを発現させることによって抑制されたことから、細胞分化異常の結果として二次的に誘導されたものではなく、むしろRasシグナルの細胞死抑制機能の低下によるものであると考えられた。すなわち、Ras/MAPKカスケードのシグナル伝達はプログラム細胞死を負に制御し生存を維持する機能を有することが明らかになった。 (2)EGF受容体を発現する培養細胞株をつくり生化学的な解析を行った。ArgosがSpitz (TGF-α相同分子)によるEGF受容体及びMAPKの活性化を阻害することを確認した。リガンド非依存的に二量体を形成し活性化する変異型EGF受容体によるERKの活性化をもArgosが阻害できることを見出し、ArgosがEGF受容体を介さずに機能している可能性を示した。 (3)ArgosによるRas/MAPKシグナルの抑制および細胞死誘導の分子機構は完全に解明されたわけではなく、未知の分子が関与している可能性がある。これら未知の分子の同定を目的として、GMR-argosの表現型を変化させる新しい変異体の遺伝学的スクリーニングを行った。現在までに約50,000の個体をスクリーニングし有意な効果を示す系統を複数同定し、マッピングの作業を進めている。
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