神経提より発生した色素細胞は表皮に進入後、一部は毛胞形成時に毛胞内に取り込まれ、毛乳頭直上に定着し、毛周期に従って死滅増殖する。マウスの場合、表皮内にとり残された色素細胞はほとんどが出生後数日で死滅する。このことは、表皮基底層と毛胞内では色素細胞の生存に関わる明らかな差が存在することを示唆している。 研究者らは、この違いを明らかにするために、色素芽細胞の増殖、生存因子であるStem Cell Factor(SCF)を表皮基底層で恒常的に発現するトランスジェニックマウスを作成した。このマウスでは、出生後も表皮基底層で色素細胞が定着したことから環境の違いを支えているのはSCFの発現の有無であることが示唆された。さらに、このトランスジェニックマウスにSCFの受容体との結合を阻害する抗体を投与したところ、表皮基底層の色素細胞は消失したが、約2週間後より点状の色素細胞斑が再び出現し、全表皮に分布するにいたった。この色素細胞斑の拡大は、同じ抗体の投与で再び阻止することができた。これらのことは表皮基底層でのSCFの恒常的な発現により、表皮への色素細胞の定着、増殖と分化が促されたのと同時に、SCF非依存性の色素幹細胞の定着も誘導されたことを示唆している。 次にこのトランスジェニックマウスを、突然変異により膜型のSCFを欠損するS1d/S1dマウスと交配した。このマウスでは表皮基底層には膜型、分泌型の両方のSCFが発現しているが、毛胞内には分泌型のSCFのみが発現する。このマウスでは、表皮基底層には色素細胞が定着したが、出生後最初の毛周期では毛には色が着かなかった。毛周期2回目以降は次第に毛にも色が着いたがごくわずかで、毛胞内の色素細胞の数とその生存期間も減少していた。これらのことから、色素細胞の毛胞内への移動には必要ないが、増殖、生存には膜型のSCFの存在が必要であることも明らかとなった。
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