研究概要 |
1カブラハバチ(Athalia rosae、広腰亜目)は昆虫で唯一、顕微授精法(ICSI法)により、体外人工授精が行える実験系である。この特長を利用して、成熟する以前の精巣中の生殖細胞(精細胞)を成熟未受精卵に注入し、これらの生殖細胞の授精能、発生参加能について調べた。卵内に注入された精細胞は卵核とは融合せず、単独で独立に発生に参加して、半数体雄キメラ個体が生じた。マーカー突然変異を用いて子孫検定を行うことにより、これらのキメラ雄個体の生殖細胞は卵核由来、精細胞核由来の両方からなっていることがわかった。しかしながら、これまでのところ受精卵は得られていない。これらの結果から、昆虫(カブラハバチ)の精細胞には発生参加能はあるものの授精能はないという可能性が示された。また、精子だけでなく精細胞でも正常に発生参加させるような卵細胞質内因子の存在が示唆された(Hatakeyama and Oishi,J.Reprod.Dev.,1997 : 159-160)。精子形成過程のさまざまなステージにある生殖細胞の授精能、発生参加能の確認については今後の課題である。 2精子あるいは精細胞の発生参加に関与する卵細胞質内因子の昆虫間での共通性を調べるために、近縁異種の精細胞を注入した。用いた異種の成熟精子は顕微受精によって、胚発生初期まで生存できる雑種を形成する。しかしながら現在のところ、精細胞の顕微注入では雑種もキメラ個体も得られていない。これらについても今後の検討課題である。
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