マウスの顔面には洞毛と呼ばれる特殊な剛毛が生えて折り、その毛包にはメルケル細胞が豊富に分布しており触覚を伝える役目を担っており、その感覚は三叉神経を通じて大脳皮質に伝えられる。知覚伝導路の中継核(延髄の三叉神経核、視床VPM核、大脳皮質体性感覚野)には一本一本の剛毛に対応したマップ構造(バレレット、バレロイド、バレル)が見られる。その形成に対して知覚刺激が深く関与しており、発生初期から知覚を遮断すると対応するマップが未形成、または、形成されたマップが消失してしまうことが知られている。今回、延髄の三叉神経核におけるマップ構造の形成過程を明らかにするために、形態学的な面と機能的な面の二方向から探究してみた。形態学的探究としては、視床VPM核に逆行性トレーサーデキストランテキサスレッドを注入し三叉神経核の知覚投射ニューロンを標識しバレレット構造形成と樹状突起のarborの変化との相関を求めること、機能的探究としては、チトクローム染色を用いて、最も早期からみられる吸啜反射と深く関与する上唇部よりのバレレットとそれに殆ど関与しない上顎部バレレットをとりあげ、バレレットの形成時期と反射系の発現時期の相関を求めることを行った。 形態学的探究については、有意な結果を得るに必要な数の三叉神経主知覚核視床路ニューロンを標識し得なかった。今後、標識物質の再検討ないしは、トレーサーをもちいた標識法以外の方法を開発する必要が有ると考えられる。機能的探究については、上唇部と上顎部からのバレレット形成時期に差が見られ、前者は後者よりもバレレットの発現が遅れるものの、神経活動に依存したバレレット維持期間は前者の方が後者よりも早期に終了した。すなわち、関与する反射が異なる知覚受容野のマップ構造は、それぞれの形成時期ないしは期間の点で異なることが明らかになった。
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