1 GABA_A受容体サブユニットに特異的に結合する抗体の作成 GABA受容体に対する抗体は、これまでに多数発表されているが、in situ hybridizationと一致し、しかも光顕・電顕において詳細な分布の検討が可能な抗体は、少数であった。今回、発生過程を通じて安定して染色像が得られるα1およびα6に対する抗体を作成し、小脳発達過程での局在変化の検討を可能にした。2 小脳皮質発達に伴うGABA_A受容体サブユニットの遺伝子および蛋白質発現・局在の変化 (1) プルキンエ細胞:分裂終了直後より発現を開始するα2・α3は、生後抑制性神経回路の形成とともに減弱し、成熟動物小脳では、消失する。代わってα1の発現が急激に増加する。免疫染色によりα1蛋白質の局在を検討すると、生後3日令より外顆粒層直下に免疫反応が現れ、発達とともに分子層に於ける発現が急激に増加していた。分子層での免疫染色像は、常に微細なドットの集合であり、シナブス部に限局して存在しているものと考えられた。 (2) 顆粒細胞:生後1週令前より内顆粒層にα1、α6、δのシグナルがほぼ同時に現れる。後方の小葉ほど早く発現し、生後2週令には小脳全体に発現を認める。免疫反応は、α1、α6ともに顆粒細胞の周囲、小脳糸球体部に微細点状に認め、GABAニューロン終末を示すCAD(グルタミン酸脱炭酸酵素)の免疫反応とほぼ一致した。 3 小脳皮質神経回路網発生との関係 α1蛋白質の局在変化は、CADで示される抑制性終末の発生・発達とよく似た経過であった。しカしながら、遺伝子発現は終末の形成時期とほぼ一致するのに対し、蛋白質の局在は数日遅れる。このことから、自発的に遺伝子発現は開始され、シナブス形成が遺伝子の発現・翻訳を加速し、シナブス後部への集積を誘導している可能性が考えられた。 α6も同様の傾向を持ち、両者は、シナプス形成がトリガーとなって遺伝子発現が加速され、シナプス部に限局して局在すると考えられる。両者ともに、プルキンエ細胞・顆粒細胞に於ける抑制性神経伝達に必須なサブユニットであることから、両サブユニットの局在解析は抑制性神経回路網の機能発現のマーカーとなることが示唆された。 4 これらのサブユニットの発現調節機構に関して、抑制性入力とサブユニットの局在の関係を解析する必要がある。
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