申請者らは神経系に特異的な新しいカルシウム結合蛋白質の一群を見い出し、P23kファミリーと命名し解析を進めている。これらの分子はいずれも脳内分布に強い偏在性を持ち、なかでもヒポカルシンは記憶形成と深く関わっているといわれる大脳の海馬錐体細胞に特徴的に存在している。本研究課題では、株化細胞を用いた発現実験およびin vitroでの転写実験を通じ、海馬神経細胞での発現を規定するヒポカルシン遺伝子上の制御領域を同定することを目的としている。また、トランスジェニック・マウスを用いてこれらの制御領域の機能を個体レベルで確認することを合わせて目的としている。 平成9年度には、ヒポカルシン遺伝子のプロモーターの詳細な性質を検討する目的で、ラット脳より調整した転写因子を用い、in vitro転写による解析を行った。ラット・ヒポカルシンのイントロンを含むゲノム遺伝子全長をテンプレートとしてin vitro転写を行った。反応系にcap analogueとyeast tRNAを添加することで、約10kbの均一な転写産物がノーザン・ブロットにより確認された。RT-PCR法によりこの転写産物の様々な領域を増幅し解析したところ、スピライシングを受けていないpre-mRNAとして転写されていることが明らかとなった。Competitive RT-PCTを行い、転写産物の絶対量を定量することでプロモーター活性の指標とした。ヒポカルシン遺伝子の翻訳開始コドン上流域がプロモーター活性に与える影響について検討したところ、上流2000b以上の領域は転写を抑制し、上流300〜1600bまでの領域は転写を活性化したことから、それぞれの領域にサイレンサーとエンハンサーの存在が示唆された。また、1stイントロンの下流域中には転写活性を促進するストロング・エンハンサーの存在が示唆された。さらにヒポカルシン遺伝子の1stエキソンにLacZを導入したトランスジーンを構築し、トランスジェニック・マウスの作成を行った。平成10年度には、トランスジェニック・マウスの解析ならびに進行中の培養細胞を用いたレポーター発現実験を通じ、海馬神経細胞での発現を規定するエレメントについてin vitro、細胞および個体レベルで総合的な解析を行う予定である。
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