申請者らは神経系に特異的に発現するEFハンド型カルシウム結合蛋白質の一群を見い出し、神経特異カルシウム結合蛋白質ファミリーと命名し解析を進めている.これらの分子はいずれも脳内分布に強い偏在性をもち、なかでもヒポカルシンは記憶形成と深く関わっているといわれる大脳の海馬錐体細胞に特徴的に存在している.本研究課題では、ヒポカルシン遺伝子上の発現制御領域を解析し、脳内での発現を海馬神経細胞に限定可能なトランスジーン・ベクターの開発を目的とした. 平成9年度には、in vitro転写系を用いてヒポカルシン遺伝子の発現制御領域について詳細に検討した.ラット脳より核内蛋白質を調整し、様々な欠損・変異を導入したヒポカルシン遺伝子をテンプレートとしてin vitro転写を行い、転写産物の絶対量をcompetitiveRT-PCRにより定量した.ヒポカルシン遺伝子の5'上流2000bp以上の領域にサイレンサーの存在が認められ、上流300〜500bpにはエンハンサーの存在が認められた.また、第1イントロンの下流域中にはストロング・エンハンサーの存在が認められた. 平成10年度には、ヒポカルシン遺伝子の第1エキソンにLacZを導入したトランスジーン・ベクターを構築し、トランスジェニック・マウスの作成を行った.ゲノミック・サザンブロットによりトランスジーンが確認された5系統についてβ-galactosidaseの発現を検討したところ、いずれも海馬特異的で、特に歯状回顆粒細胞に特徴的な発現が認められた.ヒポカルシンの発現はCA1錐体細胞に特徴的であることから、海馬内での発現領域に逆転現象が見られた.現在、脳内での発現部位におよぼすヒポカルシシ遺伝子の第1イントロンの影響について検討を行っている.
|