研究概要 |
本研究は,神経終末部に存在するヒスタミンH_3-受容体の同定および機能解析を,バッチクランプ法を用いて検討する際に必要な,新しい膜標品の開発を目的とした。すなわち,これまで神経化学研究で用いられてきたsynaptosomeをもとに膜融合させた標品,fusasomeをラット大脳皮質より調製し,これを用いてヒスタミンH_3-受容体の存在を薬理学的,電気生理学的に検討した。 まず,前年度から引き続き,synaptosomeからのグルタミン酸遊離に対するH_3-受容体アゴニストの影響を試みた。Percoll密度勾配遠心分離法で調製したsynaptosomeを蛍光光度計内のキュベットに移し,グルタミン酸脱水素酵素とβ-NADP^+を加え,外液中に生じるNADPH量を342nm励起による456nmの蛍光強度で測定した。しかし,H_3-受容体アゴニストであるα-メチルヒスタミンやイメピップの添加は脱分極刺激によるsynaptosomeからのグルタミン酸遊離に影響をおよぼさなかった。次に,GABA代謝酵素を用いて同手法によるsynaptosomeからのGABA遊離を測定し,H_3-受容体アゴニスト添加の影響を検討したが,やはり顕著な変化は見られなかった。しかし,TritonX-100を添加して膜標品を可溶化すると,グルタミン酸,GABA含量を示す反応は十分見られたため,用いた膜標品の脱分極刺激に対する反応性や受容体活性に問題があることが示唆された。 次に,synaptosome浮遊液にポリエチレングリコール溶液を加え,4℃で12時間振盪した後,これを透析し,PLLコーティングしたディッシュ底に付着させた。直径約20μmの膜融合物,fusasomeを顕微鏡下,ホールセルクランプ法に準じて膜電流の測定を試みた。しかし,膜とパッチピペット間のギガシール形成が非常に困難であり,安定した膜電流が測定できた例は極めて少なかった。また,-60mVより10mvずつ保持電位を脱分極させ,電位依存性チャネル類の活性を調べたが,Na^+性内向き電流,K^+性外向き電流とも速やかに減少することから,膜融合物のバイアビリティが非常に低いことが分かった。 以上のように,神経終末部のみを対象としたH_3-受容体刺激による膜電流の検出は不可能であった。今後はfusasome調製法自体の問題点を明らかにし,より安定した膜標品の開発に努力する。
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