細胞の生存・分化・増殖シグナルにおけるレドックス制御機構の解析

1997 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 09780728
• 研究機関: 姫路工業大学
• 研究代表者: 鎌田 英明 姫路工業大学, 理学部, 助手 (10233925)
• キーワード: レドックス / 細胞内情報伝達 / 分化 / 細胞増殖 / プロテインキナーゼ / NGF / EGF / PC12

研究概要

近年、細胞内の酸化還元(レドックス)状態が細胞の生存にとって必須であるのみならず細胞の分化や増殖に対しても重要な役割を担うことが明らかにされてきた。本研究に於いて我々は、細胞の生存・分化・増殖に関与する細胞内情報伝達機構と細胞内レドックスに関する解析を行った。神経成長因子(NGF)はPC12細胞に神経分化を誘導するが、この誘導を還元剤N-アセチルシステイン(NAC)は顕著に抑制する。この抑制機構に関する解析を行ったところ、NGFレセプターチロシンキナーゼの活性化、およびRasからMAPキナーゼカスケードに至る情報伝達がNACにより阻害されていることが見いだされた。さらに上皮成長因子(EGF)の情報伝達系に対してもNACは抑制効果を示し、EGFレセプターチロシンキナーゼの活性化を阻害することが示された。これらのレセプターチロシンキナーゼの活性化に対するNACの抑制効果は、キナーゼ活性の抑制によるものではなくむしろレセプターが活性化される際の二量体化の抑制に起因するものと考えられた。すなわちNGFやEGFなどのレセプターチロシンキナーゼの活性化にはそのレドックス状態の適正な保持が必須の要件であると考えられる。またNACはPC12細胞に於いて三量体Gタンパクを介したアセチルコリンからのMAPキナーゼの活性化に至る情報伝達系に対しても抑制効果を示すことが見いだされた。今後、さらにこれらの細胞増殖因子や三量体Gタンパクを介する情報伝達系におけるレドックス制御の分子機構に関して解明することが重要な課題であると考えられる。また細胞増殖に対するレドックスの効果を解析したところ、Wl38などの正常ヒト細胞株においてNACは細胞内へのチミジンの取り込みを抑制し、細胞増殖に対する阻害効果を示したのに対して、HeLaなどの細胞株に対してはほとんど抑制効果を示さず、細胞増殖のレドックス感受性は細胞腫により異なることが判明した。今後、細胞内情報伝達系のレドックス制御の機構と併せて、細胞腫特異的な細胞増殖のレドックス制御機構の分子メカニズムの解明を行う予定である。

研究成果

• [文献書誌] C.Tanaka: "Redox regulation of lipopolysaccharide(LPS)-induced gene expression of interleukin-8(IL-8) mediated by NFkB and AP-1 in human astrocytoma U373 cells." Biochem.Biophys.Res.Commun.232. 568-573 (1997)
• [文献書誌] K.Kawauchi: "A possible immunosuppressant,cycloprodigiosin hydrochloride,obtained from Pseudoaltelomonas denitrificans." Biochem.Biophys.Res.Commun.237. 543-547 (1997)
• [文献書誌] H.Kamata: "Redox regulation of the cellular signalling system of NGF and EGF in PC12 cells." FEBS special meeting abstracts.C103- (1997)
• [文献書誌] 岡新一: "PC12細胞におけるレドックス制御(I): H202によるレセプターチロシンキナーゼ(RTK)の活性化" 第70回日本生化学会大会発表抄録集. 908- (1997)
• [文献書誌] 渋川幸直: "PC12細胞におけるレドックス制御(II):レセプターチロシンキナーゼ(RTK)の活性化に対する還元剤(N-アセチルシステイン)の阻害効果" 第70回日本生化学会大会発表抄録集. 908- (1997)
• [文献書誌] 鎌田英明: "PC12細胞におけるレドックス制御(III):還元剤(N-アセチルシステイン)によるMAPキナーゼカスケードの抑制" 第70回日本生化学会大会発表抄録集. 908- (1997)