神経細胞間での情報の受け渡しは、開口放出に伴う神経伝達物質の放出により行われていることが知られている。この過程に影響を与える要因の一つとして、Aキナーゼ等を初めとしたいくつかの蛋白質リン酸化酵素の活性化が知られている。これらの酵素は、近年多数同定されてきた開口放出関連蛋白質に対して直接的あるいは間接的に働きかけ、伝達物質の放出過程を調節すると推測される。本研究は開口放出関連蛋白質の中で、形質膜に結合するHPC-1/syntaxin 1A蛋白質の機能性御に対するリン酸化の影響について検討することを目的として行った。 ラットの脳から、HPC-1に特異的な抗体を用いた精製の結果、Ser残基がリン酸化を受けていることが明らかになった(Kushima et al.'97J.Mol.Neurosci.)。また、PC12h細胞においても、Ser残基のリン酸化が認められた。この蛋白質はカゼインキナーゼ「にリン酸化されるとの報告がある。Aキナーゼ、Gキナーゼによるリン酸化について検討したところ、これらの酵素によるリン酸化は認められなかった。現在、その他のリン酸化酵素の基質となりうるか調べるために、そのリン酸化部位の同定を試みている。また、HPC-1のリン酸化に伴い、SNAP-25、VAMP、synaptotagmine等の結合蛋白質に対する親和性に変化が認められるか検討を行ったが、現在のところ顕著な変化は見いだせていない。最近、我々はin vitroにおいてHPC-1が2量体を形成し得ることを見い出した。(未発表)これが細胞内でも確認され得るか、そしてこの複合体に対するリン酸化の影響に付いても現在検討を行っている。
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