開口放出機構におけるシナプトタグミンの役割

1997 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 09780731
• 研究機関: 上智大学
• 研究代表者: 今泉 美佳 上智大学, 生命科学研究所, 助手 (40201941)
• キーワード: 開口放出機構 / カテコールアミン放出 / クロマフィン細胞 / シナプトタグミン / C2ドメイン / イノシトールポリリン酸 / Ca^<2+>依存性フュージョン

研究概要

1.シナプトタグミンへのイノシトールポリリン酸(Inositol Polyphosphates:IPS)結合による開口放出のクランプ機能を明らかにするために、IPSの細胞質内濃度変化をクロマフィン細胞において測定した。高透過性細胞にCa^<2+>刺激を行うと、細胞質内IPS濃度の一過性の上昇が観察された。この上昇は刺激後15秒以内に最高値に達し、カテコールアミン放出に先立って起こる。シナプトタグミンC2AドメインおよびC2Bドメイン抗体のCa^<2+>依存性IPS上昇への影響を解析したところ、このIPS上昇の一部分はシナプトタグミンC2AドメインへのCa^<2+>結合により、C2BドメインよりIPSが解離した結果であることが解った(投稿準備中)。この結果は、放出実験で我々が考察した、シナプトタグミン-クランプ仮説(静止レベルではC2BドメインへのIPS結合によって、分泌小胞の自発性放出が阻害(クランプ)されている。Ca^<2+>流入によるC2AドメインへのCa^<2+>結合により、IPSがC2Bドメインより解離し、IPSのクランプが解除され、分泌小胞のフュージョンが進行する)を支持するものである。
2.開口放出においてシナプトタグミンとともにF-アクチンの重要性を我々はすでに明らかにしている。しかし、両蛋白間の相互作用の有無は不明である。最近、細胞骨格系画分に存在し、またシナプトタグミンと結合する蛋白質、RACK1(Receptors for activated protein kinase)が見出され、このRACK1を介してF-アクチンとシナプトタグミンが細胞内で相互作用を持つ可能性が考えられる。そこで、免疫組織化学実験により、シナプトタグミン、RACK1、F-アクチンの細胞内局在を調べた。RACK1は静止時、刺激時ともに細胞膜直下のF-アクチンと同じ局在を示した。一方シナプトタグミンは、静止時には細胞膜周辺及び細胞質に存在しているが、刺激時に細胞質からF-アクチンの局在する細胞膜直下への移行が観察された。これらの結果は、シナプトタグミンのF-アクチン上に存在するRACK1への結合が、開口放出において重要であることを示唆しており、さらにこの点を明らかにするため、来年度も研究を継続する予定である。

研究成果

• [文献書誌] Ohara-Imaizumi,M.et al.: "Distinct Roles of C2A and C2B Domains of Synaptotagmin in the Regulation of Exocytosis in Adrenal Chromaffin Cells." Proc.Natl.Acad.Sci.USA. 94. 287-291 (1997)
• [文献書誌] Misonou,H.et al.: "Regulation of the priming of exocytosis and the dissociation of SNAP-25 and VAMP-2 in adrenal chromaffin cells." Neurosci.Lett.232. 182-184 (1997)
• [文献書誌] Ohara-Imaizumi,M.et al.: "Distinct Roles of C2A and C2B Domains of Synaptotagmin in the Regulation of Exocytosis in Adrenal Chromaffin Cells." The Journal of General Physiology. 110. 20a (1997)
• [文献書誌] Misonou,H.et al.: "Protein kinase C controls the priming step of regulatory exocytosis in adrenal chromaffin cells." Cell.Mol.Neurobiol.(in press). (1998)
• [文献書誌] 畠中寛 他: "ニューロサイエンス・ラボマニュアル11 神経細胞培養法" シュプリンガー・フェアラーク 東京, 347 (1997)