ラット小脳の切片培養系を用いて、顆粒細胞の発生段階特異的なアポトーシスへのinterleukin-1β converting enzyme(ICE)ファミリープロテアーゼ(カスパーゼ)の関与とその活性制御機構の解明を進めている。我々が確立したこの系では、倍地中にinsulinやIGF-Iを添加しない場合に外顆粒層の顆粒細胞がアポトーシスを起こす。本年度は本研究の前半として、このアポトーシスにおけるICE(カスパーゼ-1)様プロテアーゼとCPP32(カスパーゼ-3)様プロテアーゼの関与及び発現・活性化を比較検討し、以下のことを明らかにした。1.このアポトーシスは、ICE様プロテアーゼ阻害剤により強く、CPP32様プロテアーゼ阻害剤により弱く抑制された。このアポトーシスにICE様プロテアーゼが関与していることが示された。CPP32様プロテアーゼに関しては、阻害剤(Ac-DEVD-CHO)の基質特異性が十分に高くないことが明らかになっており、更なる検討を要する。2.RT-PCR法によってICE及びCPP32の発現量をアポトーシス条件と生存条件とで比較すると、両者とも条件による発現量の差は認められなかった。3.蛍光原性基質を用いてプロテアーゼ活性を測定することによりICE様及びCPP32様プロテアーゼの活性化をアポトーシス条件と生存条件とで比較すると、両者ともアポトーシス条件でより強いプロテアーゼ活性が認められた。但し、ここでもCPP32様プロテアーゼ基質(Ac-DEVD-AFC)の特異性に問題があった。以上のように、このアポトーシスにはICE様プロテアーゼが関与しており、その機構としてはICEの発現量ではなく活性化の程度が制御されている可能性が示唆された。一方、CPP32様プロテアーゼの関与や活性化に関しては、阻害剤及び基質の特異性に問題があり、今後の課題として残った。また、培養組織全体の解析にとどまらず、アポトーシスを起こしている個々の細胞でのプロテアーゼの発現や活性化を解析することが今後重要になると考えられる。
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