研究概要 |
後期遺伝子群(delayed early genes=DEGs)は、神経刺激後immediate early genes(IEGs)に引き続いて誘導される遺伝子群の総称で、神経系(脳)ではまだ系統的に調べられていない。late geneと呼ぶ研究者もいるが、我々はimmediate early genesによって発現制御されていることから、dalayed early genesと呼んでいる。DEGはIEGs産物によって発現調節され、シナプス可塑性の"effector"として直接機能していると考えられる。そこでIEGsを単離したときと同様に、ラットに強い電撃痙攣刺激を与え、8時間後の海馬からcDNAライブラリーを作製し、differential hybridizationによって8時間後に誘導される遺伝子群をクローニングした。約10万個のライブラリーから90個のクローンを単離し、それらのすべてについて5'および3'末端のシークエンスを行った。その結果、大部分がミトコンドリアのCytochrome oxidaseのmRNAであることが明らかになった。このcDNAをプローブにして、痙攣刺激によるmRNA誘導の時間経過を調べたところ、IEGsのそれとは異なり、痙攣発作後に徐々に増加し、8時間後に最大になることが分かった。また、他にもNa,K-ATPase(Napump)beta1 subunitのmRNAがクローニングされたので、in situ hybridizationでその誘導部位を調べたところ、海馬歯状回の顆粒細胞や錐体細胞、大脳皮質の神経細胞であることが明らかになった。しかしながら、他のNa pumpのサブユニットは変化しなかった。来年度は、これらの遺伝子の発現調節機構、特にLTPや脳の病態との関連を明らかにするとともに、別の新しい遺伝子産物もついても、その構造および生理機能を解析していく。
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