研究概要 |
1.脳高次機能の行動科学/学習記憶能:痴呆の臨床症状をより忠実に再現するため,予め弁別学習を獲得させたものを"学習獲得ラット"として位置付け,これを用いて検討した.ライトのon/offを手がかり刺激とするオペラント型弁別学習(mult VI EXTスケジュール)を用いて30日間の訓練を行ない最後の3日間の弁別率(生反応数/総反応数)の平均値が75%以上のものを"学習獲得ラット"として,脳血流慢性低灌流負荷を行なった.基準に達した"学習ラット"は25匹(81%:25/31),慢性低灌流負荷後,実際に生き残ったラットは低灌流群/偽手術群各8匹ずつの16匹で慢性低灌流負荷に因る死亡率は36%(16/25)であった.学習能力の評価は低灌流負荷1週後より再開し12週間おきに負荷12週後の時点まで行なった.負荷1週後の時点で偽手術群の弁別率(負荷前:79.3%)が78.1%であったのに対して,低灌流群(負荷前:82.4%)では51.8%に低下した.負荷12週後まで検討したが,偽手術群が常に80%程度の弁別率を示したのに比べ,低灌流群は60%程度の値に止まった.したがって,慢性低灌流負荷は弁別学習の獲得だけでなく保持についても影響を与えることが明らかとになった. 2.IN VIVO測定法による脳内情報伝達機能評価/局所脳血流量:脳血流慢性低灌流ラットの脳内主要部位の局所脳血流量を明らかにするために,接触型レーザー血流計を用いて経時的に検討した.前頭皮質,線条体において低灌流群では偽手術群に比べて40-50%程度の低下を示し,この低下は負荷12週後の時点においても同様に50%程度の低下が認められた.これに対して,海馬では負荷12週後の時点に至るまで20%程度の低下に止まった. 3.脳血流慢性低灌流ラットにおいて認められる細胞傷害の特徴付け:神経細胞,アストロサイト,ミクログリアに対する特異抗体を用いた免疫組織化学の結果,脳血流慢性低灌流ラットで認められる線条体外側部の細胞傷害は神経細胞死であることが明らかとなった.同様に虚血に対して脆弱とされる前頭皮質や海馬では例外的に認められただけであった.したがって,慢性低灌流負荷に因って引き起こされる細胞傷害は部位によってその感受性が異なる可能性が示唆された.
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