脊椎動物の脳は高度に発達した構造と機能を有する。なかでも哺乳類における大脳皮質(新皮質)の発達はめざましく、ヒトにいたっては思考・言語活動などの高次な精神活動の場として機能しうるまでに発達した。新皮質は、その全域にわたって比較的一様な層構造を持つが、機能的にも構造的にも明らかな部域差が存在する。例えば視覚・聴覚・体性感覚・運動などの機能は皮質上の異なる領野に分担され、またそれに対応して細胞の大きさ・形・密度・配列などの構造も部域ごとに異なっている。このような機能・構造上の新皮質の多様性を分子レベルで理解する第一歩として、大脳新皮質において領野特異的な発現パターンを示す分子の同定を行った。 材料として用いたのは領野分化のはっきりしたサルの脳である。中でも機能的にも位置的にも離れている一次運動野(FA)一次視覚野(OC)下側頭連合野(TE)の3つの領野を選び、Differential Display法による比較を行った。Differential Display法は任意プライマーを用いたPCRにより、発現している遺伝子をゲル上でバンドとして表示しそのパターンを比較する方法で、かつてはFalse Positiveの比率が高いことで悪名が高かったが、いくつかの改良点を取り入れることによりFalse Positiveはほぼなくすことができたと考えている。検索の結果、現在までのところ2つの候補遺伝子を見つけることが出来た。そのうち一つに関しては、RT-PCR及びノーザンブロットで発現パターンを確認している。この遺伝子は一次運動野(FA)に発現が多く見られ、アフリカミドリザルにおいては他の領野と約4倍から10倍の違いがある。現在この遺伝子の全長cDNAのクローニングや、in situ hybridization法による発現理解を行っているところである。
|