蛋白質のリン酸化は、細胞内で起こる様々な現象を制御するメカニズムの一つであり、大変重要な役割を果たしている。中枢神経系においても、リン酸化が重要であることを示す報告は数多いが、そのなかでも特にグルタミン酸受容体のリン酸化は記憶や学習に関連することが示唆されており、特に注目を集めている。従来、タンパク質のリン酸化を調べるには、放射性同位元素が不可欠であった。また、リン酸化されるアミノ酸残基を特定するには、放射性同位元素でそのタンパク質を標識した後、タンパク質分解酵素で切断し、2次元の電気泳動を行う必要があった。タンパク質のリン酸化部位決定には、このような長い経過を必要とするため、最終的に得られた結果が不明瞭であったり、報告される論文の結果が研究グループにより全く異なっていることもある。本研究では核磁気共鳴装置を用いて、従来の方法の欠点を改善し、放射性同位元素を使わずにリン酸部位を決定する方法を確立した。本方法では、タンパク質分解酵素で切断せずにリン酸化の様子が描出可能であり、タンパク質の中のどの部分にリン酸化が起こっているかは、リン酸化のシグナルのケミカルシフトから推定することができる。従来の方法では、セリンとスレオニンの区別が困難であったが、核磁気共鳴装置では別の実験を行わずに区別可能であった。またそのリン酸化の時間経過も経時的に観察された。このような利点を持つ核磁気共鳴法を用いて、現在グルタミン酸受容体のリン酸化部位について研究中である。
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