本研究では、陰影から3次元知覚をする皮質計算過程の理解を目的としている.陰影と表面テクスチャー(模様)の変化は、2次元像である網膜像から、3次元形状の知覚を行うための主要な手掛かりである.しかし、いったん2次元に投影された像から、再び3次元形状を復元することは難しい問題となる.ここでは従来の計算理論を離れ、視覚系では簡単な計算によって大まかな形状の印象を得ているのではないか、との仮説をたて、これを検証していく.平成9年度は、3次元知覚を引き起こすのは濃淡変化のどのような特徴であるのかを、心理物理実験によって研究した.同時に、濃淡の特徴化・正規化と3次元形状復元に関する基礎的な計算論的研究を始めた. 心理物理実験については、まず刺激提示ツールを開発した.OpenGLとTcl/TKライブラリを使用して、陰影を自在に制御したオブジェクトをディスプレイ上に表示するツールを開発した.通常の心理物理実験では刺激作製に大半の時間が割かれるが、このツールではユーザ対話式として、陰影の特徴をその場で変更することを可能にした.これにより、得られた実験結果を基に即時に次の実験用刺激を作製する、リアルタイムのフィードバックを実現して、フレキシブルな実験を行えるようになった.予備実験の結果、知覚分割が3次元知覚の重要な要素になっている事が示唆された.この結果はComputational Neuroscience Meeting 1998に投稿した. 計算論的には、どのような特徴量が3次元形状の復元に利用可能であるかを検討した.平成9年度は、テクスチャー変化との比較に重点をおいた.様々な手掛かりを統合して3次元知覚を行う知覚統合を視野に入れて、陰影の場合にどのような特徴化が可能であるか検討した.テクスチャーの場合は、コントラスト(magnitude)成分を捨て、周波数成分を特徴化していた.陰影の場合には、周波数成分を捨て、コントラスト成分を特徴化している可能性が示唆された.この検討結果は電子情報通信学会誌に投稿、受理された.
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