研究概要 |
本年度の研究計画に掲げた3つの研究テーマのうち、「嗅神経の嗅球への軸索ガイド機構」および「嗅神経の嗅球誘導に果たす役割」については大きな進展は得られなかったが、「嗅球から嗅皮質への軸索ガイド機構」については研究が急速に進展したのでこれを中心に報告する。 本年度は、僧帽細胞をはじめとする嗅球の出力細胞の軸索が嗅皮質にまで誘導される機構を明らかにすることを目的とし、軸索伸長経路における拡散性の誘引分子・反発分子の軸索ガイドに果たす役割について調べた。具体的には、軸索伸長期の嗅球の組織片と、嗅球の軸索が伸長する領域あるいは軸索が侵入しない領域から切り出した組織片とを、コラーゲンゲル内で互いに離した状態で共培養し、嗅球の軸索の伸長がどのような影響を受けるのか検討した。その結果、側脳室の脈絡叢の組織片が嗅球の軸索を接触非依存的に退ける働きを持つことが明らかとなった。このことは、脈絡叢組織が嗅球軸索に対する拡散性反発分子を放出していることを示唆するものである。生体内において、脈絡組織は終脳と間脳の境界部に位置し、嗅球からの軸索は終脳を越えて間脳には侵入せず、脈絡叢の直前の終脳尾側部の扁桃体に終止するということを考え合わせると、脈絡叢由来の拡散性反発分子が、嗅球の軸索を反発してそれを終脳内にとどめることにより、嗅球の終脳特異的な投射の形成に関与することが推測される。成果の一部は本年度の神経科学学会において報告している(Tamada et al.,Neurosci.Res.22,S298,1998)。
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