本研究に置いては、神経回路形成、特に軸索ガイダンスに関与する因子の単離同定を目的としてマウス嗅上皮組織断片を材料とするDifferential Display法を行った。そして本年度、部位特異的発現パターンを示す遺伝子断片の単離および解析が行われ、さらにin situハイブリダイゼイション法を用いた単離遺伝子の発現パターン解析も試みられた。 これまでのところ、Differential Display法により部位特異的に発現する27種類の遺伝子断片を単離し、そのうち15種類について核酸配列の解析を行った。その結果、9種類が未知の配列を持つものであることが見いだされた。既知の遺伝子として、ケラチンの一種であるendoB、プロスタグランジンE2受容体サブタイプであるEP3、およびラットにおいて報告されている分泌タンパク質RYA3の3種類が見いだされた。得られた各遺伝子断片について、嗅上皮におけるin situハイブリダイゼイション解析を行ったところ、非常に明確な部位特異的発現パターンを示すものが2種類見いだされた。そのうちの一つは、ゾーン3の嗅神経細胞の一部と思われる細胞にのみ限局された発現がみられた。この遺伝子断片を用いて、全嗅上皮由来のcDNAライブラリーをスクリーニングしたところ、2.5kbのcDNA断片が得られた。現在、その核酸配列を解析中であるが、既知の遺伝子との相同性は見いだされておらず、未知の遺伝子である可能性が高い。この遺伝子は本研究の目的に非常に良く合致している遺伝子であることから、今後この遺伝子の全長解析を集中的に行う。今後さらに得られるであろう候補遺伝子については、それらを強制発現させた培養細胞発現系と嗅細胞の共培養や生体の嗅細胞における強制発現等を行い、遺伝子産物の嗅細胞軸索伸展、選択的投射における役割を解析する予定である。
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