本研究の目的は、電位依存型P型カルシウムチャンネルをCre-lox Pシステムにより小脳プルキニエ細胞で特異的に欠損させ、小脳長期抑圧におけるカルシウムイオンの役割を解析することである。 本研究者はすでに小脳プルキニエ細胞に特異的に発現するP型カルシウムチャンネルのα1サブユニットのゲノミックDNAを単離した。さらに、Cre-lox Pシステムを用い、ES細胞に導入するための組み替えベクターの作製を行った。現在、マウス初期胚に導入するためのES細胞のスクリーニングを行っているところである。 このコンディショナルノックアウトマウスを解析するためには、このチャネルがプルキニエ細胞で欠損することによる小脳の形態形成への影響についての検討が必要である。このため、プルキニエ細胞の配列に異常を起こすミュータントマウスのReeler、Yotariを用い、胎生期のプルキニエ細胞の移動に関する解析を行った。 まず、胎生13および14日目のマウス胚から小脳を分離後器官培養し、プルキニエ細胞の移動を調べた。正常マウスでは培養開始後7日目にプルキニエ細胞の整列が確認されたが、ミュータントマウスの小脳ではプルキニエ細胞は正しい位置に整列できない。これは、正常マウスの顆粒細胞を培養することにより改善させた。この作用は顆粒細胞が産生分泌するリーリンにより行われていると考えられる。そこで、神経由来の株化細胞Neuro2aにリーリンの遺伝子を導入し、リーリンを定常的に産生分泌するクローンを分離した。現在このクローンを用い、プルキニエ細胞の移動の異常を救済できるかどうか調べている。 また、特異的にプルキニエ細胞のみが脱落死するミュータントマウス、pcdでのリーリンの過剰発現を明らかにした。これはプルキニエ細胞自身がリーリンの発現を調節する可能性を示唆する。 さらにこのリーリンの機能に関するカルシウムの作用について検討する。
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