研究概要 |
申請者らはラットの脳切片標本を用いて視覚野の長期増強(LTP)を解析し、白質に加えた同一の条件刺激(theta burst stimulation,TBS)により、時間経過の速いLTP(fast LTP,fLTP)と遅いLTP(slow LTP,sLTP)の二種のLTPが皮質4層に引き起こされること、fLTPの誘発にはNMDA受容体の、sLTPの誘発にはL型電位依存性Caチャネルの活性化がそれぞれ必要であることを明らかにした。さらに、sLTPの誘発は、蛋白、及びRNA合成阻害剤により阻害されるが、fLTPの誘発は全く影響を受けないことも明らかになった(Kurotani et aj.,1996)。 昨年度に続き今年度も、NMDA受容体、L型Caチャネルという異なる経路を通って細胞内に流入したCaイオンが、fLTP、sLTPを誘発する際に賦活化する細胞内情報伝達系を同定することを試みた。protein kinaseの一種、serine-threonine kinaseの阻害剤staurosporineは、sLTPの誘発頻度を濃度依存的に低下させたが、fLTPの誘発頻度と大きさには影響を与えなかった。これに対し、protein phosphatase 1/2Aの阻害剤、calyculin A存在下では、fLTPはshort-term potentiation様の時間経過を示すようになり、誘発頻度は濃度依存的に抑制される傾向が見られた。また、protein phosphatase 2Bの阻害剤、FK-506も同様の効果を示した。さらにstaurosporine、calyclin A、FK506を、それぞれsLTP、fLTPの誘発後に投与してもLTPのmaintenanceは阻害されなかった。これらの結果から、1)NMDA受容体の活性化→Caの流入→protein phosphataseの活性化という経路がfLTPの誘発に、2)L型Caチャネルの活性化→Caの流入→serine-threonine protein kinasesの活性化→蛋白合成系という経路がsLTPの誘発に関与していると結論される。 これらの結果を、1998年11月にロサンゼルスで開催された第28回北米神経科学会で発表した。
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