霊長類下部側頭葉は物体認知に関する視覚経路の最終段階であり、知覚だけでなく記憶にも関係することが、これまでの破壊実験や電気生理学的実験によって示されている。そこで、TE野並びに36野を含む下部側頭葉に、物体の知覚または記憶に関係するニューロンがどのように分布しているかをシングルユニットレコーディングを用いて調べ、機能的マッピングを完成させることを本研究の第一目的とした。 初めにサル4頭に視覚性対連合記憶課題を学習させた。この課題は手がかり刺激から、特定の選択図形を想起することを課し、知覚処理のみならず長期記憶を要求する。課題を学習させた後、MRIにより作製したサ脳の個体アトラスを参照しながら課題遂行中のサルの36野とTE野において、手がかり刺激提示期間の神経応答を解析した。ニューロンの対符号化を評価するペアインデックス(PI)として、対連合図形の組み合わせと各刺激図形が誘導する神経発火について相関係数を計算した。TE野と36野の細胞群が示すPIは双方とも有意に正の値をとり、さらに36野が示すPIの値はTE野に比べて有意に大きかった。この結果は36野とTE野の視覚記憶表現に機能分化があることを示すとともに、連想記憶機構における36野の重要性を示唆する。 第2の目的は、視覚記憶ニューロンの構成する神経ネットワークを形態学的手法により解明することである。具体的には、下部側頭葉の中で視覚記憶ニューロンが分布している中心領域にファーストブルーやコレラトキシン等を微量注入し、視覚記憶ニューロンにシナプスを形成するニューロンの存在領域を調べる。今回、開発した電気記録とX線撮影により注入部位を正確に同定できると同時に100nl程度の微量な注入が行える系を用いて既に2頭のサルに注入を行った。
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