ICGNマウスは、ネフローゼ症候群を自然発症するマウスで、生後数日からアルブミンを中心とした低分子タンパクが尿中に大量に濾出され、その後日齢にともなって進行性に病態が悪化する。ところが、離乳直後のICGNマウスに6%タンパクという極端にタンパク質を制限した飼料を与えると、2〜3日以内に尿中アルブミンが完全に消失することが最近明らかになった。そこで、低タンパク飼料給餌の前後におけるICGNマウスの病態の変化を分子遺伝学的に検討し、血中アルブミンの尿中ヘの漏出機序を明らかにすることを目的として、研究を実施している。 ICGNマウスと正常マウスにおける各種遺伝子の発現パターンを比較したところ、基底膜構成成分であるコラーゲンIVとラミニン、これらの産生を制御するサイトカインであるTGF-βとPDGFの各遺伝子の発現量は、正常マウスにくらべICGNマウスにおいて1.5〜3倍程度高かった。さらに、DDA(differcntial display analysis)法により、ICGNマウスと正常マウスとのあいだで発現量に変化の見られるその他の遺伝子を検索した。DDA法は、非特異的なプライマーを用いたRT-PCRによりmRNAの発現の違いを1枚のゲルの上でフィンガープリントとしていく方法で、同時に多数の遺伝子の発現を解析できる手法である。その結果、フィンガープリント上では両マウス間で特有のバンドが認められたが、現在のところそれらの遺伝子の同定には至っていない。 また、ICGNマウスに低タンパク飼料を与えた後経時的に採尿し、尿中アルブミンの消失時期を調べた。尿中アルブミンの消失前後で、糸球体基底膜構成成分の合成と分解に関わる因子の発現がどのように変化したかを調べため、両時期のマウスより腎を摘出し、マイクロダイセクション法により腎糸球体を単離し、mRNAを抽出した。基底膜構成成分であるコラーゲンIV、ラミニン、フィブロネクチン、ヘパラン硫酸プロテオグリカン、その分解に関わるMMPとTIMP、TGF-βやPDGF等のサイトカインについて、現在RT-PCRによりその発現量の変化を調べている。
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