研究概要 |
動脈硬化や内膜肥厚などの肥厚性の血管病を引き起こすコレステロールの担体である血液中の低密度リポ蛋白分子(LDL)の輸送に着目し,流れにともなう輸送現象と管壁のろ過作用による濃縮現象から決定される流体中の巨大分子の濃度場をモデル実験およびコンピュータ・シミュレーションにより調べた. 1.モデル実験では,直径0.5μmのポリスチレン微粒子を懸濁した水溶液を,血管を模擬した直径6mmの真直ぐな透析用チューブ内に一定流量で流し,チューブの軸中心部に垂直に照射したレーザー光の透過光強度を測定して、流体中のポリスチレン微粒子の濃度変化を観測した.その結果,透析膜からの水透過速度を生体血管に近い値(6.2x10^<-6>cm/s)に設定した場合,壁せん断速度が1s^<-1>以下で粒子濃度が急激に上昇した.このことから,壁の水透過速度が極めて小さい場合でも,壁近傍の粒子濃度が流速に依存して変化することがわかった. 2.コンピュータ.シミュレーションでは,壁面でのろ過作用を表わす境界条件下で輸送方程式を数値的に解くことにより,種々の流れ場で形成されるリポ蛋白の濃度分布について調べた.真直ぐな円管の場合,濃度境界層の発達にともない壁面上のLDL濃度が高くなり,同じ長さの血管の場合,流れが遅いほど,また,水透過速度が大きいほど壁面のLDL濃度が高くなることがわかった.また,壁面濃度は分子サイズによって異なる拡散係数の大きさに依存し,LDLの分子サイズ以上で,このような流速に依存した壁面濃度の変化が有意に現れることがわかった.さらに,軸対称の狭窄を有する血管や蛇行した血管に対して解析を行った結果,フローパターンに応じてLDLの壁面濃度が変化し,動脈硬化が起こりやすいとされている低壁せん断応力部でLDLの壁面濃度が局所的に高くなることが示唆された.
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