研究概要 |
平成9年度は主に老年期痴呆に対する検査システムの試作を行った.検査システムは,制御装置,視聴覚刺激システムおよび運動計測システムで構成した.視聴覚刺激システムは,自作した視聴覚刺激デバイスと設備備品費として計上したプロジェクタとを組み合わせて実現した.プロジェクタを用いて中心視野に詳細な映像を呈示し,さらに視聴覚刺激デバイスにより視野全体に点光源・点音源を呈示可能である.被験者の応答を計測するための運動計測システムは,現有設備の三次元位置計測装置および自作のインターフェース機器を組み合わせて構成した.ここでは,自作に必要な電子部品費およびインターフェース部品費を消耗品費として計上した.また,平成9年度は基礎実験として,成人健常者を対象とした視覚・聴覚刺激のターゲットに対する認識位置および見落としの計測を行い,検査システムのパラメータを決定するとともにコントロールデータを一部収集した.その結果,20代健常者では視野周辺部の見落としが5%以下であるのに対し,高齢健常者では見落としが80%近くにまで増加することを見いだした.また,視空間定位の歪みに年代に固有の傾向があることを明らかにした.20代健常者と高齢健常者に共通した傾向として,聴覚刺激が付加されることにより反応潜時を短くすることが出来ることを見いだした.これらの知見は,痴呆検査のための基礎データに有用となるだけでなく,高齢歩行者の事故防止の際にも注意を促す手法として役立てることが出来る.
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