研究概要 |
【緒言】腫瘍の増殖や転移には血管新生が重要な役割を果たしている。腫瘍の増殖に伴い、その周辺組織に血管新生が生じ、やがて、腫瘍内に新生血管網が形成される。腫瘍の微小循環動態をin vivoに可視化して評価することができれば、病態生理学的な意義だけでなく、化学療法や免疫療法などの腫瘍の治療上に重要な示唆を与えることが期待される。これまで腫瘍組織の微小循環動態は様々な方法で可視化が試みられきたが、主として、齧歯類の背部やウサギの耳介などに人工的なチャンバーを装着し、そこに腫瘍組織を植える方法が主であった。そこで、より生理的な条件下に腫瘍の微小循環動態を可視化することを目的とし、我々はラットの腹膜播種性腫瘍モデルを作成した。本研究では、このモデルを用いて腫瘍の栄養血管の血流動態について検討した。 【方法】Fischer344系雄性ラットの腹腔内に継代培養した同系由来の大腸癌細胞株であるRCN-9を1×10^7個播種して腹膜播種性腫瘍モデルラットを作成した。腫瘍細胞播種後6〜11日後、腸間膜上に形成された微小血管網を蛍光生体顕微鏡下に観察し、血管網をHortonの法則(終末細動・静脈をorder 1とし、order 1の枝同士が合流した枝をorder 2とし、順次血管の枝の次数を決定する)に基づいて解析するとともに、赤血球の中心流速と血管径を計測した。赤血球流速はdual sensor法により計測した。血管径はFITC-dextran(FD-500)を経静脈的に投与し、SITカメラにて画像化し、モニタ上での血管の蛍光像から測定した。腫瘍を植えていない正常のラットの腸間膜の微小血管網を対照とし、同様に解析した。 【結果と考察】腫瘍播種群では、腸間膜上に形成された腫瘤に流入、流出する血管網(腫瘍の栄養血管)と、腫瘤とは無関係に発達した血管網にわけて解析した。腫瘤に直接流入する細動脈の内径は24.8±1.5μm(mean±SEM,n=22)であった。これは、腫瘍を播種していない正常群の腸間膜の血管網において,Hortonの法則のorder 2の細動脈(22.5±1.4μm,n=16)に相当する内径であった。一方、赤血球流速は、3.23±0.42mm/secで、正常群のorder 2の細動脈の約1/2の値を示した。一方、腫瘤から直接流出する細動脈の内径は、37.2±5.7μm(n=9)で、正常群のorder 3の細静脈(42.5±2.7μm,n=5)に相当した。赤血球流速は、0.95±0.14mm/secで、正常群のorder 3の細静脈の約1/2であった。一方、種瘤播種群でも、腫瘤へ直接流入、流出しない細動・静脈においては腫瘍を播種しない正常群との間に血流速度の分布に差を認めなかった。 腹膜播種性腫瘍において、腫瘤に流入、流出する細動・静脈(腫瘍栄養血管)は血管径が拡張し、血流は緩徐であった。
|