[目的] 生体顕微鏡法による微小循環の可視化は、従来は特殊な薄い組織でのみ可能であった。しかし、微小循環は本質的に多様な臓器特異性、種特異性をもつ動的システムであるので、その観察対象が、実質臓器を含む様々な臓器、組織に拡大されることが望まれる。また腫瘍組織の微小循環あるいは腫瘍の成長に伴う血管新生の現象は、重要な臨床的意義を有するにもかかわらず、従来は可視化の適当な手法がなかった。われわれはこのような視点から、共焦点レーザ走査型顕微鏡および蛍光トレーサ法を腫瘍組織内の微小循環動態の可視化に応用することを試みた。さらに本研究では、腫瘍組織内の新生血管内の血流動態や白血球の挙動に白血球走化性因子が与える影響についても検討を行った。 [方法] 観察対象の腫瘍組織は腹膜播種性腫瘍モデルによって作製した。7週齢のFischer344系雄性ラットに、継代培養した大腸癌細胞株であるRCN-9(理研細胞銀行)を1×10^7個腹腔内注射することによって、腸間膜上に腫瘤を形成させた。腫瘍細胞を播種して9〜10日後、腸間膜上に形成された径200〜300μmの腫瘍を生体顕微鏡下に観察した。ラットをペントバルビタールにて麻酔後、腸間膜をリアルタイム共焦点レーザ走査型顕微鏡の視野に固定した。蛍光トレーサ法としては、観察対象に応じてFITC標識dextran、FITC標識赤血球、rhodamine6Gのいずれかを頸静脈から投与した。励起光として、488nmもしくは514nmのアルゴンイオンレーザを用い、得られた像をSITカメラにて可視化し、VTRに録画した。白血球遊走化性因子としては、fMLP(N-Formyl-L-Met-L-Leu-L-Phe-Oh)またはLPS(lipopolysaccharide)を局所投与し、血流動態および白血球の挙動に及ぼす影響を観察した。 [結果と方法] 本法により、ある程度の厚みを持った固形腫瘍組織内の微小循環の可視化が可能になり、血管径、血流速度の計測および白血球の挙動の詳細な解析が可能になった。腫瘍組織内では、正常な腸間膜の細静脈に比べて、血液の流れか緩徐であるにもかかわらず、白血球の接着性が有意に低い傾向にあった。また、二種類の白血球走化性因子の投与により、腫瘍組織内の微小循環動態に有意な変化は認められなかったが、白血球の接着性に関しては、二種類の走化性因子それぞれに異なる反応性を示した。すなわち、fMLPの投与により、粘着を示す白血球の数が増加し、LPSの投与によりローリングを示す白血球の数が増加する傾向を示した。以上の結果から、腫瘍組織内の新生血管においては、接着分子の発現ないしはその分布が正常な細静脈とは異なる可能性が示唆された。
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