研究概要 |
本研究では無痛自動採血を実現するための針の形状と穿刺方法および針穿刺の計測制御系を検討することを目的としている.経皮的に血管への穿刺を行う場合,いかに血管変形が無くスムーズに穿刺できるかが重要な課題である.無痛的に吸血する蚊は一対の鋸状の細針を振動させて皮膚や血管を穿刺する.本年度はこのような穿刺方法を解析するためのコンピュータシミュレータの基礎部分の作成と穿刺方法の有効性確認のための計測系の製作を行った. シミュレーションモデルは皮膚を有限個のバネが四面体に連結された弾性体と見なし,このモデルの力学的平衡から荷重が加えられたときの皮膚形状を算出した.さらに皮膚の破断をバネの破断と見なし,穿刺をシミュレートした.市販採血針の外径の針を皮膚に見立てた薄膜モデルに穿刺したときの薄膜の変形と破断の様子は,実際に弾性ゴムを穿刺したときの挙動と一致し,モデルの有効性が確認された.採血針の外径や先端の鋭さに対する破断限界の大きさはほぼ反比例し,実際の現象に一致した.さらに針の外径が薄膜の厚さに対して大きくなると,針に接する表面ではなく底面から破断することが示された.以上より皮膚や血管の変形を押さえることができる針の先端形状などを見いだすために,本シミュレータが有用であると考えられた. また無痛的に穿刺するために皮膚に加わる力の大きさが重要な要素であると考え,穿刺に要する力を連続的に測定する装置を開発した.装置は採血針を超音波リニアモータで滑らかに微小送りし,針に加わる軸方向の力を歪みゲージで約5/100gの精度で連続計測する.この装置を用いてウサギの耳介静脈への穿刺を行った結果,針の外形に比例したピークの大きさを持つ穿刺力波形が得られた.この穿刺力波形は自動採血の際に皮膚や血管を穿刺したときの成否の判断として利用可能であることも示唆された.
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