ヘリコバクター・ピロリ(HP)は、胃壁に存在し、胃潰瘍の形成に本質的な役割を担う細菌である。現在、その除菌法に関して様々な研究が進められているが、特効薬はまだ開発されていない。 HPは、胃酸の強酸性下でも生育できるよう、強力なウレアーゼを用いて尿素を分解し、発生したアンモニアを用いて胃酸を中和している。本研究では、ウレアーゼの阻害剤を封入したリポソームをHPに導入してアンモニアの生成を抑制し、HPを胃酸の強酸性下にさらすことにより死滅させる新規の胃潰瘍治療薬の開発を試みた。このためには、耐酸性を有するの脂質の開発とHPへの選択的なリポソームの導入法の開発が鍵となる。 本年度は、ジステアロイルホスホエタノールアミン(DSPE)の末端アミノ基にブロモアルキル基を結合し、HP抗体(市販品。HPのリポ多糖を認識する)を還元して生成したチオール基とチオエーテル結合を介して結合させることとした。しかしながら、基礎実験の結果、立体障害のためかブロモアルキル基に対するチオール基の反応性が芳しくなく、かなり過酷な条件での反応が必要であることが明らかとなった。そこで、より架橋反応が進行しやすいように、DSPEのアミノ基に対して、無水マレイン酸を反応させてマレイミド体に変換し、その2重結合部にHP抗体由来のチオール基を付加させる方法を用いることとした。この方法は、これまでにも頻繁に用いられており、信頼性の高い方法である。以上のようにして得られたHP抗体を有する脂質を、昨年度合成した耐熱、耐酸性を有する脂質と混合し、今後、その耐酸性、HPへの結合能を解析してゆく予定である。
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