温度に応答して32℃を境により高温で水溶性から不溶性に変化するポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)(PIPAAm)を固定表面に導入するとこの表面は温度に応答して低温で親水性、32℃より高温で疎水性になる。このような表面を用いて我々は既に酵素を用いることなく培養細胞を回収するシステムを構築している。本研究ではこのPIPAAm修飾表面を用いて、この表面上での細胞の接着力を作用場流動分画法を利用して定量的に評価することを目的とした。メルカプトプロピオン酸を連鎖移動剤としてIPAAmのラジカル重合を行うことにより片未端にカルボキシル基を有するPIPAAmを合成した。分子量はGPC、末端基滴定により定量し、約10000のものを実験に用いた。PIPAAmの末端カルボキシル基を用いてアミノ化スライドガラスにアミド結合を介して導入した。PIPAAmの導入は表面のESCAを用いた解析により確認した。さらに、Wilhelmy平板法を用いた動的接触角の測定からPIPAAm修飾表面が低温で親水性、高温側で疎水性を示す温度応答性表面であることを確認した。このスライドガラスと2つの小孔を有するガラス板を用いて厚さ0.3mmのテフロンスペーサーを挟んだリボン型チャンネルを作製した。このチャンネル内にラット腸間膜リンパ節より採取したリンパ球を注入し所定時間静置することによりPIPAAm修飾表面と相互作用させたのち、所定流速で緩衝液を流すことにより脱着してくる細胞数を計数した。温度を4℃と37℃とで実験を行った結果、4℃では剪断応力が2.7dyne/cm^2で80%以上のリンパ球が回収できるのに対し、37℃では50%程度しか回収できず、さらに静置時間を延長すると回収率が低下することも判明した。以上のことからPIPAAmの水和により親水性になった表面で細胞はきわめて弱い力で接着していることが明らかとなった。
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