研究概要 |
温度変化に応答し低温で親水性、高温で疎水性を示すポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)(PIPAAm)誘導体を固体表面に導入し、この表面を用いた新規な疎水性細胞クロマトグラフィーの確立を目指した。今年度は、生理条件下で負荷電を有する細胞と静電相互作用するアミノ基をIPAAmとともに導入した表面を作製し、この表面とリンパ球との相互作用を作用場流動分画法により解析した。IPAAmとN,N-ジメチルアミノプロピルアクリルアミド(DMAPAA)をその混合比を変化させて50w/w%イソプロピルアルコール溶液とし、この所定量を組織培養用ボリスチレン表面に塗布後、直ちに電子線(150kV.0.3MGy)を照射することでポリマーの重合と表面への固定を同時(こ行った。表面へのポリマーの導入はESCAとFT-IR/ATRにより確認し、その導入量は約1.5μg/cm^2であった。表面電位測定から、PIPAAmの導入により表面の負荷電が中和され、さらにDMAPAAを導入することで正に転じた。さらに、低温で親水性、高温側で疎水性となることを接触角測定から明らかとした。この表面とラット腸間膜リンパ節リンパ球との相互作用を作用場流動分画法を用いて解析した。いずれの表面でも剪断応力の増大につれてリンパ球の回収率は増加し、かつ、37℃よりも4℃で高い回収率を示した。これは、低温側でより親水性の表面とリンパ球とが弱い相互作用をすることを示している。興味深いことに、DMAPAAを5mol%仕込んだ表面では37℃でも著しく弱い相互作用を示し、60-80%のリンパ球が回収された。さらなるDMAPAAの導入でリンパ球と表面との静電相互作用が強く発現し、4℃でも回収率が減少した。少量のアミノ基を導入した表面は、正荷電を有するにも関わらず水和構造が著しく変化するために37℃でもリンパ球ときわめて弱い相互作用をしたと考えられた。以上から、温度変化とアミノ基の導入量を変化させることでリンパ球との相互作用を任意に制御できることが示された。
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